Almost transparent blue

「うぉ〜いライアン!!!水もう積んだ?」
「あぁ。樽に5つ分,先ほど船倉に運んでおいた」
「おうサンキュ,じゃあ後は食料か?えぇと」
「小麦ならあの緑の看板の店が安いですよ。干し肉は,ここから路地を一本入ったところにある肉屋のがお勧めです。独特のスパイスがきいてて軽く炙るとまた,たまらないんですよ」
「おっめっちゃ美味そう美味そう。食いてぇー」

「さすがトルネコ,レイクナバはもと地元なだけあって詳しいのね!」
「ええ,任せてくださいよ。いや懐かしいなぁ,ネネが安い材料を上手く使って料理してくれたも・・・」
「では私たちで買いに行ってきますね。ほらほら姉さん何見てるのよ,食料買い出しに行くわよ」
「・・・あいあーい。いいじゃない,こんだけ人数いるんだしさぁ,ちょっとくらい」
「二人ともよろしくなっ」

「わしは一足先に宿に向かってもよいかのぅ?」
「おぅブライは無理すんな,あの揺れは腰にきただろ?風呂でも入って休んでなって」
「ノイエ,野菜調達してきてもいいですか?」
「あったりまえじゃん!クリフトに任せた!!」
「わたしも行っていい・・・?」
「はい,ではこの篭を持っていきましょうね」
「うん!」
「みんな頼んだぜ!・・・・・・ってあれ?結局俺は何すればいいんだ???」






スタンシアラで見事王を笑わせることに成功した一行は,その立役者であるパノンを船でモンバーバラまで送り届けた後,次は天空の盾があるというライアンの故郷,バトランドを目指した。
がしかし,その途中で大シケに会い,足止めを食らう羽目になる。

静止している感覚とはどんなものだったか忘れそうになるほどの激しい高波。
そしてすぐ傍にいる仲間の声すら聞き取れないほどの豪雨と暴風。
そんな状態がずっと続けば,皆の疲労も限界まで溜まる。

小さな島の陰に船を寄せて,なんとかかんとかやり過ごした4日目の朝。
前の晩,交替で舵の番をしていたノイエとクリフトは,つかの間の休息ののち,メインマストの状態を確認するために甲板へ上がった。
扉を開けた途端,差し込む陽光。
晴れ渡った青い空に,穏やかにそよぐ風。

「・・・・・・・・・っ,ぅわぁーいっっ!!!!」

子供のような歓声を上げながら舳先に向かって走っていくノイエの後姿を,クリフトは笑顔で見送った。



そのあとは実に快適な航海だった。
魔物にも会わず,また天気にも恵まれ,船は快調にバトランドへ向かって進む。
問題は食料だ。常に多めには積んでいるものの,先は長い。また嵐にでも合ったら,足りなくなる可能性はある。
舵を取るトルネコから小さめの海図を受け取り,ノイエはにらめっこを開始した。
近いのは,フレノールまたはレイクナバだと,地図を後ろから覗き込んだライアンが教えてくれる。

「なぁなぁブライ」
「・・・うん?なんじゃ」
「フレノールって,サントハイム領?」
「そうじゃ。サントハイムの東端にあたる」
「そっか。・・・じゃあレイクナバに決定!トルネコ,明日くらいには着く?」
「そうですねぇ,ここの海路をこう行けば・・・」

杖を掲げて太陽にかざし,陰りが見えた部分を磨きながらブライは,ノイエに心の中でこっそり感謝した。






「あぁぁもう,疲れたわ〜。腕痛い」

すべての物資を船に積み終え,皆で宿へと向かう途中。マーニャは右の二の腕を左手で揉みながら言った。

「何言ってるの,姉さん小麦一袋しか持ってくれなかったじゃない」
「あたしのこの華奢な腕じゃ,それが限界なのよぅ」
「鉄の扇振り回してるのにか?」
「もうノイエの魔法の特訓に付き合ってあげない」
「ぅえっなっ,なんでだよ!」
「お子様は素直が一番よ?ノイエ」
「だから素直に思ったこと言ってんじゃん」
「あんたって子は・・・」

ノイエ,マーニャと魔法の練習してたんだ。アリーナは驚いて,クリフトを見上げる。
視線に気がついたクリフトは,目で頷いた。

「・・・知らなかった」
「頑張って,ますよ?」
「そうなんだ」

少しだけ喉の奥が詰まるような感じがして,アリーナは唾を飲み込んだ後,丸い息をはいた。





宿の入り口にある食堂で,トルネコが待っていた。

「あぁお疲れ様でしたみなさん。部屋は,3つ取れましたよ。
 ここの奥を行ったところにある3部屋です。ブライさんは,手前の部屋で休んでいらっしゃいますよ」
「おぅ分かった。じゃあ3部屋の時の,いつもの部屋割りでな」
「あたしたちは一番奥ね。・・・アリーナおいで。髪梳かしてあげるわ」
「うん!」

ぴょこぴょこと。マーニャとミネアの後をついていくアリーナ。その髪が面白いように左右に揺れる。
まるで,梳かしてもらえるのを髪自身が喜んでいるみたいに見えて,ノイエはなんだか可笑しかった。

「ひひひ。・・・あれ?トルネコどっか行くのか」
「ええちょっと。夕食までには戻ります。いやね,古くからの知人に会いにいこうかと思いまして。
 この時間ならたぶん,教会にいるんじゃないかと」
「教会に行かれるのでしたら,私もご一緒してよろしいでしょうか?神父様にご挨拶したいので」
「ええもちろんです,一緒に行きましょう。すぐそこですから,クリフト君」
「じゃあ俺は風呂にでも・・・・・・あっそうだトルネコ」
「はい?」
「えと,この街にさ・・・」



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小さな後書き

ノイエの周りの人は,いろいろと手伝ってあげたくなるようです。得な奴。
さて,degu流レイクナバ,ここから一気に行きます。

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