「・・・それから急いで薬草を摘み,ケイティの家に戻った。
そのときにはもう,赤ん坊は生まれていた。母親も無事だった。二人でそれはもう喜んだよ」
ライアンは胡坐を組みなおす。
ノイエの顔が興奮で上気していた。
クリフトはほっとして,無意識に上がっていた肩を下ろした。
「母親は,生まれたての男の子を私に抱かせてくれた。
手も足も,目鼻も,何もかも作り物のように小さいのに,すべて自分と同じように動いていた。
大声で泣き声を上げていた。小さな命が,確かにこの場所で生きていることの証明のようだった」
「すげぇ・・・」
「命は,偉大ですね」
「ああ。・・・そのときからだ,戦士になりたいと思ったのは。自分の力を,民を守ることに使いたい,と。
すると,故郷が好きになった。城が好きになった。訓練にもどんどん身が入るようになったな」
「故郷を,守る,かぁ・・・」
ノイエがぽそっと呟く。
「ノイエ・・・」
「ん?・・・あ,大丈夫。その分俺は今,みんなを守りたいぞ?」
「その心が,ノイエ殿をどんどん強くしているのだな」
「おう!いつか絶対,ライアンに剣で勝ってみせるからな。練習おさらいしよ!」
剣を持って,ノイエは甲板の中央に走っていく。先ほどライアンと打ち合った型をなぞり始めた。
「守ることは,力になるな。固執しすぎてもいけないが」
「ええ。気をつけます」
心当たりがあるだけに,クリフトは苦笑いした。
「もうじき,ケイティさんや,その時生まれた子にも会えますね」
「ケイティはイムルの村・・・あの,明かりが見える村だ。あそこに嫁に行った。
弟のほうは薬草屋をついだから,今もバトランドにいるはずだ」
「弟さんのお名前は?」
ライアンの顔が急に赤くなった。
あまりにもいきなりで,しかもまためずらしいものだから,クリフトは驚いた。
「・・・ライアン」
「えっ!?」
「母親が,私の名を気に入ってしまったらしくてな。
ケイティを助けたお礼も込めて,ライアンと名づけてくれたのだよ・・・」
ははは・・・と照れ笑いするライアンは,いつもより随分若く見えた。
「ライアーン!また分からなくなったーー」
ノイエが再び戻ってきた。
「教えてくれ〜」
「分かった」
「うわーい。・・・でもほんとライアンってさ,かっこいいよな」
「ん?」
「うん,かっこいい!今日の話聞いてますます思った」
「そ,そうか?」
「おう!なんかさ,」
ばしぃっ!と,ノイエはライアンの肩を叩いた。
「理想のお父さん,って感じ!!!」
ノイエはまた走って甲板のど真ん中に戻っていく。
「お・・・お父さんか・・・」
「すみません・・・」
なんとなくクリフトは謝ってしまった。
ノイエはただ純粋に,褒め言葉として言ったはずだ。
ライアンにもそれが分かるだけに,なにも言えない。
「まぁ,実際に歳も16の差があるわけだから,仕方がないと言えば仕方がない」
「ええっライアンさん34歳なんですか!?」
「ああ」
「び,びっくりです・・・」
思ったより若くてか,それとも思ったより年だったからか。ライアンはそこのところは聞かないことにした。
「クリフト殿は,ノイエ殿と同い年だったな」
「あ・・・はい。ほとんど同じです」
正確には新年をはさんで3日違いだから,クリフトのほうが一つ上にはなる。
「18か。二人とも,若いな・・・」
ケイティは守れたが,旅立つきっかけとなったあの事件で,心優しい小さな友は守れなかった。
せめて故郷は守りきりたいと強く思った。友との約束でもあった。
勇者を探し当てることができれば,世界を・・・要は,バトランドを救えるのだと思っていた。
しかし,出会った勇者はあまりにも若かった。普通の少年に見えた。
若い彼に降りかかる困難を少しでも振り払うのが,自分の役目だと思った。
自分には子供がいないのでよく分からないが,確かに,息子を見守る父の気持ちに近いのかもしれない。
「おおーいライアン,まだ〜!?」
「今行く」
すべてを守るための剣を手にして,ライアンは腰を上げた。
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小さな後書き
7000ヒットを踏んでいただいたyukkyさんのキリリク,
「ライアンが幼い頃を回想する話」でした。ノイエと稽古してたりすると
なおOKとのことでしたので,ばっちり使わせていただきました。
yukkyさん,リクエストありがとうございました!
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