みのりのうたを奏でよう

朝,目が覚めてすぐに,大急ぎでカーテンを開けて窓の外を見た。
空がきれいに晴れていることを確認して思わず声を上げてしまったのは,内緒の話。また子供っぽいって言われちまう。
だって今日は村の収穫祭。落ち着いてろってほうが無理な話じゃん!





結構早起きしたのに,母さんはもう台所に立っていた。

「おはよ!母さん早いなー」
「あらおはよう。ええ,この後すぐに夜の準備に取り掛からないといけないから」
「父さんは?」
「野菜取りにいったけど」
「えっもう!?」

早ぇー!!
俺は父さんとは違う仕事だけど,やっぱりなるべく早く行って手伝いしないとな。


・・・って,噂をしていたらちょうど父さんが帰ってきた。
でっかいかぼちゃを両手で抱えてニコニコ顔だ。

「あぁノイエ,おはよう」
「おはよ。それ,今晩使うやつ?」
「そう,スープの材料だ」
「そういえばいっつもうちで大量のスープ作ってたっけ」
「母さんのかぼちゃスープは村で一番だからな。毎年頼まれるんだよ」
「あらぁいやですよお父さん」


・・・相変わらず仲いいよなぁ・・・・・・。






パンとミルク,それからベーコンエッグにサラダを急いでかき込んで,家を飛び出した。
近道するために森の中を通った。歩きながらぐぐーっと背伸びをして,天を仰いでみる。
白い絵の具を刷毛でむりやり引き伸ばしたような細いすじ雲。空の高いところで自由気ままに踊っていた。
クリスマスのときの飾りみたいに,樹に巻きついて実をぶら下げる蔓。アケビにカラスウリ。紫と赤。
樹自体にもたくさん実がなってる。こっちのは胡桃。あっちは栗だ。
降り積もった落ち葉を押し退けて,茸がにょきにょきと顔を出している。・・・あ。あれすげぇ美味いやつじゃん。あとで取りにこよっと。

乾いた風が吹き抜ける。かろうじて枝に留まっていた,色の変わった葉をさらっていく。つられて俺までさらわれそう。
秋の声がする。
・・・なんか急に筆を取りたくなった。今の,この感じ。この気配を絵に封じ込めたい。


「・・・おぉ〜いノイエー!ちょっとこっち,これ運ぶの手伝ってくれ!」
「お?・・・おぅ!」

いやいや,今日は本業はお休みだ。目に焼き付けるだけで我慢しないと。




宿屋のおっちゃんが,結構太めの丸太たちを相手に格闘していた。

「この丸太,またいつもみたいに組むのか?」
「そうそう,四角に積み上げるんだ。助かったよ,重くてしんどかったんだ。寄る年波には勝てんな」
「はははっ!なぁに言ってんだか。確かうちの父さんより若いんじゃなかったっけ。・・・・・・んしょ,っと」
「おおぉおー・・・。お前ちから付いたなぁ」
「俺,馬鹿力らしいよ 。いろんな人に言われた。実際よりちょっと細く見えるから余計にだってさ」
「あぁ確かに。いやあまさか2本同時にいくとは思わんかった」

おっちゃんは感心したような,でも少しあきれたような顔をした後,「そしたらここは任せた!」と言い残して別の場所の手伝いに向かってしまった。


「・・・俺一人でやれって?」


でもまあ,仕方ないか。今日はみんな大忙しだから。



ごんごん丸太を組みながら,なんとなく,村に建つ家々を眺めてみる。
エンドールから派遣された大工の手を借りて,みんなで力を合わせて建てた家たち。
せっかくだから広くしたり,もっと快適にしたりもできたはずなのに。みんな,以前とまったく同じ大きさの,同じ設備の家を望んだ。


春にみんなが帰ってきてから,半年。
村は蘇った。
収穫祭を二年分まとめて盛大にやろう。そう決まってからは,もうこの日が待ち遠しくてしょうがなかったんだ。





・・・結局,俺一人でなんとか丸太を組み終えた。
途中で師匠がちらりと顔を出したけど,「これも修業だ!」とかなんとか言って,全然手伝ってくれなかった。くそぅ。
そのあとも,行く先々で力仕事を頼まれた。みんな口々に,「助かった」「ありがとう」「ノイエがいてくれてよかった」と言う。
村にいる若い男は俺だけなんだな,ってことを,改めて実感した。








こまごまとした手伝いをしてるうちに,あっという間に夕方になった。
テーブルを広場に運んでいる途中,ノイエもそろそろ準備をせねばならんのではないか,と長老に言われて,ぎょっとした。
そうだった!俺まだいつもの服じゃん!!


慌ててうちに帰る。家の前で父さんが待っていた。
げ,父さんもう着替えてる。

「急げノイエ,ぎりぎりだ」
「まじで!すぐ着替えてくるから!」
「笛も忘れるなよ」
「はぁい!」

扉を開ける。もう準備万端の母さんが,俺の服を持って待っていた。

「お帰りノイエ。さあ急いで着替えて」
「ただいま!おぅ分かった!」


服を受け取って自分の部屋に行って,着替えた。
母さんが作ってくれた服。伝統的な衣装・・・というかなんというか,お祭りごとのときにしか着ない服。
白いシャツに深い赤のベスト,ちょっと短めのズボンに先のとがった靴。三角の帽子も忘れちゃいけない。
色は多少違うけど,男はみんなこの格好だ。全員今日の為に新調した。
女の人たちも,もちろんいつもと違う服装。母さんはとても幸せそうな顔で,服のすそに刺繍を入れていたっけ。
シンシアも自分で縫ったらしい。・・・そういえば今日はまだ顔すら見ていない。多分家で料理作ってたんだろうな。


いつもの笛を手にとって部屋を出た。母さんがものっすごい笑顔になって,うんうんと頷いた。

「よく似合ってるわ。まるで父さんの若い頃みたい」
「あったりまえじゃん親子だし。さあ,行こうぜ!」




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小さな後書き

さあ,二年分まとめて盛大に!

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