リセット

ふわんふわんのスクランブルエッグ。分厚いベーコンが添えられた目玉焼き。
それから,具だくさんのオムレツ。
ハーブが香る鶏のオーブン焼き。パンに挟まれた甘辛い照り焼き。
シチューの中でとろけるもも肉。

卵料理と鶏料理はどれも大好き。でも,あと数日は食べたくないし見たくもない。





こんなに長い時間戦い続けたのは初めてだった。
拳も蹴りも,ちゃんと急所に入っている感覚があった。なのにまるで効いていない。
こっちは相手の腕の一振りで,いとも簡単に飛ばされて地面に叩きつけられる。クリフトとミネアが怪我を負った人の元へと走り回る。

長かった。とにかく長かった。
わたしの拳とライアンの剣,その直後にノイエの雷を纏った剣での一撃を受けて,二体はようやく地に倒れてくれた。
卵型と鶏型の魔物。・・・エッグラとチキーラ,だったっけ。
うぅん,やっぱり魔物じゃない。魔物とは気配が違う。


「あぁ,もう・・・,もう勘弁してほしいわ」
「姉さん大丈夫・・・。いま残りの怪我治すから」
「ブライ様も,左腕がまだ」
「わしの怪我は大したことはない。・・・凄まじい戦いじゃったな」
「やっ・・・,ば・・・」
「ノイエ君!」

ふらりと右に傾いた身体を,トルネコが後ろから,クリフトが右から支える。わたしは遠くて間に合わない。
少し遅れて,ノイエの剣が地面で乾いた音を立てた。
近くに戻ってきていた鶏たちが,またすごい勢いで逃げていく。

「わり・・・。魔法力使い過ぎただけ・・・」
「座ってください」
「や,立ってる。だって」

強いままのノイエの視線を追った。


「えっ」
「なんで」



突然,卵と鶏の親玉が動いた。
つまづいて転んだ後に起き上がるみたいに,ひょい,って。信じられない!


「あいたたた,頭にこぶができた!」
「結構効いたなぁ!」


意味が分からない。どうしてそんなに普通に動いてるの。
戦いは終わっていなかった。
再び拳を握り直して身を構えた直後,エッグラとチキーラは突然大声で笑い出した。


「うーむ,なかなかやるな!楽しかったぞ!!」
「うむ!久々に楽しかったな!」

みんなで必死になって攻撃して,なんとか倒したのに。
向こうにとっては稽古感覚だったってことなの?

「よしっ今日は気分がいい。お前に褒美をやろう!」
「あーっずるいぞ!ワシが先に言おうと思っていたのに!」

二匹はこちらに背を向けて,後ろにある風景画に手を伸ばした。
そもそもこんなところに絵が飾ってあること自体が,ものすごく不自然。しかも城の大広間に飾ってちょうどいいようなサイズだった。
呪文を唱えている。何かの力が注がれているのが,魔法を使えないわたしにも分かった。


「なんじゃ,これは・・・!」

ブライがこんなに動揺するなんて。どんな呪文なんだろう。
描かれている大きな樹が輝き出きだした。破裂音と同時に光が弾ける。眩しい。目を開けていられない。


音が消えた。そぉっと目を開けてみたら,光も消えていた。


「・・・あれっ?」


絵が,変わっていた。
緑の葉だけを茂らせていた樹に,大きな花が一輪咲いている。


「さあ!これですごーくいいことが起こったはずだぞ」
「うむ!これはどこかの樹にめずらしい花が咲いたということだな!」
「卵とワシに,ものすごーく感謝しろ!わははっ」
「それを言うなら鶏とわしに感謝するのだ!」


二人はまた喧嘩を始めてしまった。
鶏たちがまた戻ってくる。コケコケと鳴き始める。



「・・・一体,なんだったんでしょうか」
「すげぇ。筆もなんも使ってないのに」
「深く考えるのはそこじゃないと思うよ」
「だよな・・・」
「あの絵に描かれているのは,あの樹みたいですねぇ」
「行ってみる価値はあるな」
「でももう今日は,あのてっぺんまで登る余力はないわよ・・・」
「とりあえずルーラで樹の根元まで移動して,一晩休んでからにしません?」
「じゃの」


「そんなこと言うと,もう鶏に卵を産ませないからな!」
「何を生意気な!そんなことを言うと,もう卵を温めさせないぞ!!」



・・・急に疲れが襲ってきた。




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小さな後書き

エッグラとチキーラ,いったい何者なんでしょうね…。未だに謎です。

さて,あの樹のもとへ向かいましょう。

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