街道の先には確かに,村があった。
しかし,皆が予想していた小さな農村とは少々趣が異なっていた。


「すっげー綺麗なとこじゃん!」
「おとぎばなしに出てきそう!かわいい!」
「いやぁこれは。上手に宣伝すれば,観光地としてもやっていけそうですねぇ」


花で美しく飾られた,村の入口の門。そこからよく整備された路が続いている。
三角屋根に白い壁。造りに統一感のある家々の窓辺には,センスのよい寄せ植えの鉢が連なる。
賑わう商店街。店頭に並ぶ野菜や果物は素晴らしい出来だ。
花屋には先ほどのアイスチューリップを始め,ダリアやバラなどの秋に咲く花々を入れた桶が所狭しと並べられていた。

「村というよりはもう,街じゃのう」
「きっといい宿が見つかりそ・・・・・・姉さんちょっと? 置いてくわよ」
「・・・はいはい。よさげなブレスレットがあったから見てただけ」



広場に出た。さほど広くはないが,色の異なる石を敷き詰めて描かれた模様が美しい。

「お? ・・・なんか変だぞ」
「随分と賑やかだな」
「あれ?もしかして」


広場の半分が,テーブルで埋まっていた。
その上に次々と並べられる食器と花器。昼食には遅く,夕食には早い時間だというのに。
よくよく見れば,広場に面した店や民家,教会までもが,鉢植えや切花,リボン等で飾り付けられている。
その量と華やかさは日常の装飾の域を超えていた。

精一杯着飾った女性達の華やかな笑い声。テーブルを運び込む男性達はみな笑顔だ。
アリーナの目が輝く。両肩が上がり,髪がふわりと広がった。


「きっと今日,この村の祭りなのね!!」
「えぇ,そうだと思います。いいタイミングで訪れましたね」
「そっか,さっき花畑にいた兄ちゃんがぜひ泊まってってくれって言ってたのって,祭りだからか!」

歩く速度がどんどん速くなるアリーナとノイエ,そして2人の歩調につられるクリフト。
どんどん差を広げられ,残る5人は思わず口元を緩めた。

「あらあら,テンション上がってるわね〜」
「先日のスタンシアラは,水の神に感謝する祭りだったが」
「ここだと山の神様? 収穫祭かしら」
「いや,それだと時期的に少し遅いような気もするがのぅ」
「・・・ん? ・・・あった,宿発見ー! おぉーいみんな,あそこでいいか?」
「あぁ綺麗じゃない。いいんじゃないの」
「ではパトリシアは私が連れていきますよ」
「さんきゅトルネコ。じゃあいつもの感じで荷物運ぼうぜ!」
「うん!」






宿に馬車と荷物を預け,身軽になった一行は早速,広場へと繰り出した。


「うわ,さっきよりも人が増えてるね!」
「食べ物も並び始めましたね。この村の郷土料理かな,後で作り方を聞いてみましょう」
「すっげぇいい匂い・・・! なんか腹減ってきたな」
「あんた昼休憩のときに何枚パンケーキを食べたのか忘れちゃったわけ」
「失礼,観光客の方ですか?」


声をかけてきたのは,恰幅のいい初老の男性だった。
一番近くにいたクリフトが答える。

「はい。今日偶然お邪魔したのですが,今夜はこちらに泊まって観光することにしました」
「そうでしたか! いや,ようこそいらっしゃいました。ぜひ楽しんでいって下さい」

私はこの村の村長です,と男性はにこやかに名乗る。

「村長さんでしたか。こちらはとても美しい村ですねぇ。
 景観に統一感があって素晴らしいです。エンドールに帰ったら宣伝しておきますね」
「エンドールの商人さんが広めてくださるとはありがたい。ようやく村の復興がひと段落したばかりで,
 なかなか宣伝まで手が回らないもので。助かります」
「復興?」
「はい。一昨年,この村は壊滅的な被害を受けまして」
「ええっ!?」



村長は簡潔に語った。
山に囲まれたこの土地では小さな地すべりがよく起きるが,良い土が山から畑へと運ばれるため,それも山の恵みとして村人たちは受け入れていたという。
しかし一昨年,秋の長雨で東の山が大きく崩れ,村の半分近くが膝まで土砂に埋まってしまった。
死者が出なかったのが不幸中の幸いだが,復興には莫大な時間と労力を費やした。
二年近くかけてようやく元に近い状態まで戻せたというのだ。



「被害は大きかったですが,今回は命を落としたものがいなかった。
 それで十分です。住まう人々さえ無事なら,村は何度でもよみがえりますから」
「・・・・・・そ,そういえば,今日の祭りって何の祭りなんですか?収穫祭ですか?」

一瞬浮かべてしまった複雑な表情を追い払いながら,ノイエはめったに使わない丁寧語で村長に尋ねる。

「いえ,収穫祭は二十日ほど前に終わりました。
 今日は神ではなく,人々に感謝する祭りです。家族に,隣近所に,村中の者に,そして」

村長は笑顔で軽く礼をした。

「こんな山奥まで足を運んでくださった皆さんに感謝を。
 たいしたおもてなしは出来ませんが,どうか村の料理を召し上がっていって下さい。
 そして村の者たちから沢山の花と祝福を受け取ってください」
「花と祝福??」
「はい。申し訳ないですが,最初にお一人にひとつずつ花束を買っていただければ」




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小さな後書き

ひとりひとつずつの花束で,大勢に祝福をする。
さて,いったいどんな方法で?

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