5 .picture book




サランの領主館,その正門脇にある小部屋。
衛兵からの連絡を受けて,真っ先に駆けつけた領主の跡取り息子,ソルフィスは,ぐったりとした様子でかがみ込んでいる弟の姿に驚愕した。


「クリフト!」
「・・・兄上。お久し・・・ぶりです・・・」
「久しぶり,ソル。突然ごめんね」
「おぉ,夜分にすまんのう」
「いえ,ようこそおいで下さいました。じきに父と母もこちらに参りますので。
 ・・・クリフト,大丈夫か?」
「はい・・・いつもの症状です。ルーラで来たので・・・」


兄を見上げ,クリフトは頼りなく笑った。
そんな弟の背中を,ソルフィスは容赦なくべしべしと叩く。


「ははっ,数年ぶりに見た弟の姿がこれとはな!先日は私だけ外出していて会えなかったからなぁ。
 あぁでもクリフト,随分大人っぽくなったじゃないか。うん,私に似て男前だ」
「・・・ソル,相変わらずね」

なまじ容姿が似ている兄弟なだけに,この性格の違いがアリーナには可笑しくてたまらない。
ソルフィスは優雅に一礼すると,これだけはクリフトとまったく異なる,身長に見合った低めの声で言った。


「姫様,ブライ様,ようこそサランへ。ルラーフ家一同,心より歓迎いたします」





ソルフィスの言ったとおり,すぐに領主夫妻がやってきた。
まだ顔色の悪いクリフトに,ウェイマーが肩を貸す。
「ただいま」と言ったアリーナを,フィアナが抱きしめる。
横でブライがいつものように,ほっほっほと笑う。

家族の優しさ。温かな気配。聞きなれた声。
身体の奥にわずかに残っていた,凝り固まった疲労と緊張感が溶け出していくのが,クリフトとアリーナには分かった。
・・・ああ,帰ってきたんだ。
二人はそう実感した。



一行は食事の間へと案内された。
食事はすでに済ませていることをブライが伝えると,軽食と酒,そして茶が用意された。
皆に,近況を報告する。明日が最後の戦いになるであろうことも,アリーナは告げた。

「お父様たち,きっと明日,戻ってくると思うの。
 だからウェイマー,明日は一日,城の様子に気を配っておいてくれる?」
「かしこまりました。すぐにお迎えできるよう,城の付近で待機していましょう」
「ありがとう」

クリフトとブライと目を合わせ,アリーナはこくりと頷いた。

「わたしたちも,必ず勝って戻ってくる。絶対に負けないから」




旅の最中に起こったさまざまな出来事。
サランの現状や,サントハイム国内の情勢。
お互いに話は尽きなかったが,明日に備えて早めに解散となった。
クリフトがいつものように,アリーナを部屋まで送っていく。二人が退出するのを見届けてからブライは,旧友に声をかけた。

「・・・さて。おぬしの執務室にでも行くとするかの」
「えぇ,あそこが一番いいでしょう。飲み物を届けさせましょう,何かご希望は?」
「梅昆布茶がいいのう」

眉を下げて,ウェイマーは笑った。






サラン領主の執務室。ソファーにゆったりと腰掛けて,ブライは熱い茶をすする。
向かいには,紅茶には手をつけずに,両膝に手を置いて目を閉じたまま動かないウェイマー。


「飲まんのか?ルラーフ卿」
「いえ,いただきます。あぁ,ウェイマーで結構ですよ」
「そうじゃな。ここは城ではないしのう。昔のように気楽にいかせてもらうわい」
「そうしていただければ」
「・・・クリフトと姫様のことを話しておこうと思って誘ったが,おぬしのことじゃ。
 さきほどの二人の雰囲気で,すでに気付いておるのじゃろう」
「恋仲になっている,という点でしたら」

ウェイマーはテーブルの上のカップを手に取ると,少しだけ口に含んだ。

「息子がようやく長年の想いを告げることができたのかと思うと,父親としてはうれしい限りです。
 ・・・他にも何か?」
「もうお互い,許婚同士だと知っておる」
「なっ・・・」
「わしが言った」
「・・・・・・そうですか」
「すまんかったな。言わん約束じゃったのに」
「いえ」


この季節に吹く海からの強い風を受けて,窓の枠が軋んだ。


「・・・確かにこれ以上,隠しておく必要もないでしょう。
 クリフトももう,守られているばかりの子供ではありません」



世間に公表しない,また本人たちも知らない,内密の婚約者。
許婚としてではなく,学友としてでもなく,あくまで神官見習いとして城に預けた。
将来手にすることになる,大きな権力のうちの一つを隠すために。
若くして他界した二人の兄の二の舞に,決してならないように。

すべては,クリフトを守るためだった。



「あやつももう19か。早いもんじゃのぅ。
 ・・・そういえばおぬし,先日すでに,クリフトに名を与えていたのじゃな」
「はい。仮にですが」

ウェイマーは首から下げた小さな銀のプレートに触れた。
サントハイムの貴族は皆,成人の儀式の際に3つ目の名を貰う。以後,名を彫り込んだプレートを常に身につける習慣があった。

「・・・ランダルとレナートには,3つ目の名前を授けることができませんでした。
 そのせいでしょうか,私も臆病になっていたのかもしれません。あと少しなのに,待てなかった」
「わしにも知らせてくれればよかったのに。仮とはいえ,立ち会いたかったのぅ」
「すみません」

ほっほっほ,と笑い,ブライは湯飲みを置いた。
遠い記憶を,ゆっくりと辿った。



ブライの妻は身体が弱く,二人の間には子供がいなかった。
それゆえ,幼くして城に上がった友の息子たちを,ブライは我が子のように可愛がった。
優しく気立てのいい双子の兄弟。僅か15で逝ってしまった時の悲しみは,例えようのないほど大きなものだった。

その兄たちに,クリフトはよく似ていた。
アリーナとクリフトがほぼ同い年なのにも関わらず,アリーナを孫のように,クリフトを息子のように感じる理由は,ここにあった。



「・・・のう,ウェイマーよ」
「はい」
「わしは,ランダルとレナートを守りきれんかった」
「いえ,それは・・・」
「クリフトにも酷い怪我を負わせた。旅に出たばかりの頃じゃ。
 脇腹に,傷が残ってしもうた」


ブライはローブの布地を握り締めた。
皺の刻まれた指に力が入った。


「誓おう。明日は何事もなかったかのように,3人で城にもどってこよう。
 大怪我はさせん。クリフトも,姫様もな」
「えぇ。お待ちしています」

ウェイマーはゆっくりソファーから腰を上げると,ブライに右手を差し出した。
彼の息子と同じ笑顔に,強張っていたブライの表情もほどけていく。

「手を上に向けてする握手は,若者のすることじゃろうが」
「気持ちだけでも若くありたいので」
「ふん,よく言うわい。外見も十分若いくせに」


ブライも立ち上がって,その手を掴んだ。
知友二人は声を出さずに目だけで笑った。昔に戻った気がした。


「・・・さあ,明日から大忙しじゃ。王をお迎えして・・・あぁ,城中大掃除せねばならんのう。面倒じゃ。
 そして,3年遅れの姫様とクリフトの成人の儀式」
「それからクリフトの司祭長任命式ですね」
「さらに結婚式か?3つまとめて一気にやれたら楽なんじゃが」
「楽しみを小分けで味わえると考えれば,一つずつ行うのも悪くないでしょう」
「うまいこと言うのぉ」

再びソファーに身体を沈めたブライは,片眉を上げると,正面のウェイマーを見た。

「・・・もしかすると今頃あの二人は,どちらかの部屋で一緒に過ごしておるかもしれんぞ?」
「そうですね」
「なんじゃ面白くない,もう少し慌てるか焦るかせんか」
「ははは・・・」
「・・・まあ,どうせいつものように,茶を飲んでおるだけじゃろうがな」
「クリフトの日課でしたから。話をして,本を読んで,子守唄を歌うのは」



その幼馴染としての役目も,もうすぐ終わる。
クリフトの立場は,幼馴染から,夫へと変化する。



「わしらの役目も,そろそろ終わりじゃの」
「嬉しい反面,寂しいものですね」
「せめて結婚の儀式が終わるまでは,めいいっぱい保護者面をさせてもらおうではないか」
「ええ。なるべく面倒ごとは,こちらで片付けなければ。
 ・・・飲み物がなくなりましたね。代わりを持ってこさせましょう。同じものでいいですか?」
「いや,普通の茶を頼む。ここに来る前にすでに,梅昆布茶を飲んだからのう」
「塩分の取りすぎにならないように?」
「そうじゃ。若いもんの言うことも,たまには聞かねばなるまい」



ほっほっほ。
好々爺然とした,いつもの笑い声。




「長生きしたいからのぅ」








来客用の部屋へアリーナを案内したクリフトは,お休みの挨拶をして別れた。

自分の部屋に戻って寝間着に着替えたのもつかの間,部屋の扉が叩かれる。
やはりもう少し着替えずに待っていればよかったなと思いながら,クリフトは扉を開けた。

寝間着姿のアリーナが,こちらを見上げていた。


「来ちゃった」
「いらっしゃるんじゃないかと思ってました」
「どうして?」
「さきほど部屋の前で,私を引き止められませんでしたから」

笑って,アリーナを迎え入れる。その右手に握られたポットに気がついた。

「いつものお茶の葉,少しだけ持ってきてますよ」
「それってわたしが,飲みたいって言うと思ったから?」
「えぇ」
「ありがとう。でもね,これお湯じゃないの」


そう言われてクリフトはようやく,ポットから漂う独特の匂いに気が付いた。


「もしかして,ミルク?」
「そう,あったかいやつ。ほんとは,お湯をもらいに台所にいったんだけどね。
 でもなんだか急に,子供の頃のことを思い出しちゃって」
「よくこの部屋で飲みましたね」
「うん。・・・あ,いいよ,わたしが入れるから」

クリフトがテーブルに並べた二つのカップに,アリーナはミルクを注いだ。
ふわりと甘い香りが広がる。それぞれ一つずつ手に取った。
クリフトが勧めてくれたソファーには座らずに,アリーナはカップを持ったまま,ゆっくりと歩きながら,部屋を眺めた。



机の上のペンは,いつもクリフトが使っている青い軸のもの。
インクは,凝った細工のガラス瓶に入っている。これと同じものを,城のクリフトの部屋で見た覚えがあった。

左手にあるクローゼットには,さきほどまで着ていた神官服が,ハンガーに綺麗に掛けられて収まっているのだろう。
タンスの一番下のひきだしには,成長してサイズが会わなくなった服がちゃんととってあるのを,アリーナは知っていた。

大きな本棚はびっしりと詰まっていた。
城の部屋の本棚に入りきらなくなった分を,クリフトは順にこちらに移していた。
絵本,伝記,文献,医学書。左上からきっちりと古い順に並んでいる。


アリーナはようやく立ち止まると,同じように立ったままのクリフトに問うた。

「クリフトって,ここにはどのくらいの頻度で来てたんだっけ?」
「そうですね・・・数ヶ月に一度くらいでしょうか」
「そっか。でもそれだけしか来てなくても,ちゃんとここ,クリフトの部屋だなって感じがする」
「幼い頃はもう少し頻繁に来てましたけどね」
「ウェイマーが城に来るたびに,ついて帰ってたよね。わたしも一緒に」



昼は館の中を駆け回って遊び,夜はこの部屋でミルクを飲みながらおしゃべりした後,本を読んでもらった。
サントハイム城と,サランの領主館。場所は変われど,なんら変わらない行動。幼い二人の平和な日常。



アリーナはベッドの端に腰掛け,ぴょこぴょこと手招きした。
呼ばれたクリフトは,眉を下げて笑いながら,その左に腰掛けた。

「・・・城でも,ここでも,よく疲れて一緒に寝ちゃってたね」
「ええ。まず姫様が寝てしまって」
「そのあとクリフトも本を読みながら,かくん,ってなってたんでしょ」
「そうでした。ネジの切れたおもちゃの人形みたいに」
「あはは,そのたとえ,ぴったり」



・・・ふいに,会話が途切れた。
しかし,訪れた沈黙は決して重苦しいものではない。
二人はしばらく,互いの存在を傍に感じながら,ゆっくりとミルクのカップを傾けていた。



やがてアリーナは,ベッドから腰を上げた。
飲み終わったカップをテーブルの上に置くと,本棚の前に向かった。
一番上の段の本を取り出そうと一生懸命背伸びをするが,届かない。それを見たクリフトは立ち上がって,アリーナの背後に回ると,後ろから手を伸ばした。

「この本ですか?」
「ありがと。やっぱりクリフト大きいね,簡単に届いちゃうんだ。
 うん,これ。この部屋に置いてあったのね」


それは,一冊の絵本。


「・・・うわ,『奇跡の花』だ。懐かしいですね」
「ねぇクリフト,これね・・・」
「久しぶりに,読みましょうか?」
「うん!」






クリフトはランプの灯りを強くした。橙色の光が,部屋の壁を,カーテンを,そして二人を同じ色に染めた。

再度,ベッドに腰掛ける。
絵本を自分とアリーナの間に広げると,クリフトはゆっくりと,丁寧な発音で読み始めた。


「むかしむかし,ある国に,とてもかわいらしい姉妹がいました。
 どちらも明るく元気がよく,一生懸命にひつじの世話のお手伝いをする,それはそれはいい娘たちでした・・・」



話はこう続く。
妹が突然の病に命を失ってしまう。姉は妹を救おうと,魂を甦らせることができるという奇跡の花を探す。
野を越え山を越えて,森の動物たちに助けられ,花の女神に導かれて,少女はついにその花を手に入れる。

帰りに,山賊に花を奪われそうになる。しかし,心のやましいものは花を手にした途端,突然の雷に打たれてその場に倒れてしまう。
少女はなんとか無事に家まで帰り着き,妹を甦らせる。



「姉妹はずっと,二人仲良く暮らしました。・・・おしまい」


読み終わって,クリフトは最後のページをぱたんと閉じた。
絵本に向いていた二人の視線が,お互いの顔へと戻った。

「ありがとう,読んでくれて」
「いいえ。・・・でも,今思うとこの話・・・」
「うん,きっと世界樹の花のことよね。古くからの言い伝えが童話になって残っているのかも」
「そうかもしれません」


失った人を再び取り戻せる花。
奇跡の花。幸福の花。
しかしそのあまりの力ゆえに,争いの火種にもなる花。

失った人は大勢いた。
世界樹の花のことを聞いたとき,とっさに,アリーナは母を,マーニャとミネアは父を,ノイエは村人全員のことを思いだした。

だが花の力は,一つの大きな争いを回避するために使われた。
絵本のように,肉親のためには使われなかった。


「・・・わたしたち8人は,雷に打たれなかったね」

そう呟いたアリーナが少しおぼつかなく見えて,クリフトは右手を伸ばし,アリーナの頭を自分の肩に寄せた。

「あの決断を下せた私たちなら。明日,決して負けることはありません」
「明日ですべて,決まるのね。三年間,長かったような気もするし,短かったような気もする。
 ・・・わたしね,不思議とそんなに怖くない」

アリーナの手が,クリフトの胸に添えられた。

「最近,すごく思うの。
 わたしは小さな頃から,周りのみんなにいっぱい愛されて育ってきたんだな,って。
 お父様,お母様。ブライに,城の兵士や使用人。ルラーフ家のみんな。・・・ううん,国中の人たちから」
「えぇ」
「城のみんなに,いっぱいありがとうって言いたい。
 国中のみんなと一緒に,サントハイムを守っていきたい。これからもずっと。
 明日はその始まりの日,第一日目なんだって思えば,怖くないし,負ける気もしないわ」


明るい灯を映す,生気溢れるアリーナの瞳。
華奢な手の上に,クリフトは自分の手を重ねた。


「帰りましょう。私たちが育った,あの城に」
「うん」


互いの温もりが伝わってくる。


「・・・そろそろ遅い時間だから,戻らないとね」
「はい。いつかのように,明け方近くまでお話してしまったら大変です」
「明日のために,ちゃんと睡眠とって,身体休めないといけないものね」
「子供の頃のように,一緒に眠るわけにはいきませんし」


口ではそう言っているのに,どちらも手を離さない。・・・離せない。
視線がぶつかる。そらせなくなる。言葉が出なくなる。

このままこうしていると,離れられなくなる。同時にそう直感し,お互いにぱっと手を離した。



数瞬固まったのち,二人は突然,笑い出した。

「はははは・・・っ」
「もうっ・・・!」


しばらく笑い続けていたクリフトとアリーナだったが,それもやがて治まる。
後に残ったのは,落ち着いた,温かな空気だった。


クリフトは再び,アリーナの手をとった。


「姫様」
「うん」
「一つだけ,言葉にさせてください」


アリーナはゆっくりと頷いた。
濃い青の瞳で,クリフトはまっすぐにアリーナを見つめた。

彼がずっと恐れていた,言葉の持つ負の力。
それを克服できた今,ためらわずに口にできる。正の力を,使える。


「全てが落ち着いて,私たち二人が,三年遅れの成人の儀式を済ませたら。
 ・・・アリーナ様。私の妻に,なってくださいますか」



アリーナの睫毛が震えた。
大きく見開かれた目はやがて細くなり,そして僅かに光の粒を含む。



「・・・・・・はい」



小声で返事をしたアリーナの手に口づけ,クリフトはその言葉を誓いへと昇華させた。


「ありがとう,ございます・・・」
「ううん。わたしこそ,ありがとう」
「これだけは,ちゃんと言っておきたかったんです」
「またクリフトが泣くのね。いつかと同じ」
「すみません」

クリフトは頬に伝う涙を左手で拭い,ほほえんだ。

「・・・それと,もう一つ。
 また,離れられなくなることがあったら。その時は,共に眠ってくださいますか」
「うん。今日も傍にいていいのなら,いるわ」
「・・・・・・」
「ちょっとだけお話したら,すぐに寝る。隣にいるだけ。・・・駄目かな?」






結局アリーナは,クリフトのベッドの右半分を占領することに成功した。

恐ろしいほど近くに,寝間着姿のアリーナがいるというのに。クリフトの心は不思議なほど落ち着いていた。
枕元のランプを消すと何も見えなくなったが,そのうちに目がなれてくる。
窓の外の景色が見えるようになった。強かった風は,いつの間にか治まっている。
夜空に輝く星々は,子供の頃からすっかり見慣れた配置。


いつものように,二人は取り留めのない話をした。今日の話題は,幼い頃の失敗談。
階段の手すりを滑って遊んでいたら,着地に失敗してしりもちをついたこと。
聖水の瓶を三本まとめて割ってしまったこと。
中庭の樹を蹴りの練習に使っていたら,だんだんと枯れてきて焦ったこと。
勉強のしすぎで睡眠不足になり,体調を崩して皆に大迷惑をかけたこと。

全てが懐かしく,かつ鮮やかな思い出。


話をしているうちに,やがて二人を睡魔が襲う。これではまるで子供と同じだ。
ホットミルクと絵本のせいかもしれないと,クリフトとアリーナは笑った。


「おやすみ」
「おやすみなさい」


二人はまさに『ネジの切れたおもちゃの人形』のように,すとんと深い眠りに落ちた。




ゆっくりと更けてゆくサランの夜。
どちらも共に,この屋敷を駆け回って遊ぶ,幼い頃の夢を見た。



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小さな後書き

見守ってきた保護者たち,見守られてきた子供たち。
どちらも,それぞれの決意を胸に秘めて,最終決戦に臨みます。

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